【理系大学生】文系就活

【文系就活する理系大学生へ】文系就職できる理系大学生の条件とは?

はじめに

 文系就職を目指す理系学生および大学院生が就活を成功させるために認識すべき要件を解説します。具体的には、大学で学んだ理系の技術専門性を活かすことを前提に、理系学生が文系学生よりも優位に立てる業界と職種の組み合わせを紹介します。

文系就職を目指す理系学生とは?

 理系の大学生および大学院生のうち、多くは技術職(製造、研究開発、品質管理など)として就職しますが、商社、金融、コンサルティング、IT、マスコミ、人材紹介派遣、公務員などのサービス業や製造業の営業・マーケティング・法務・経理など技術職ではない文系職種への新卒採用を目指す学生が一定割合で存在します。

 彼らが文系就職を目指す理由は次の4パターンに分類されます。大卒・学士の場合、これまでは相対的に①と②が多く、③④は少ない傾向にあります。一方、大学院・修士、大学院・博士の場合は③が多い傾向にあります。

① 大学での理系学習の経験を通じて、理系に向いていない(理系への興味の喪失も含む)と感じた。
② 文系の職種やライフスタイルに興味(心地よさや成長の可能性を含む)を見出した。
③ 大学で学んだ理系の専門性を活かせる文系職種を見つけた。
④ 近い将来に家業を継ぐ予定などの外部要因によって、経営を学ぶために文系就職することとした。

 いずれにせよ、理系学生が文系就職に成功するためには、少なくとも文系学生と比較して優位点を示す必要があります。要するに、あなたは企業に対して理系のあなたを文系職種で採用するメリットを自らアピールしなければなりません。
 その際の武器の一つが、理系としてオリジナルな経験と知見です。あなたは、企業の採用人事担当者に「理系であることの強みと文系職種志向との掛け合わせ(文理融合キャリア)が成果を出すうえで有効であること」を示すために最大限に自己演出するのです。それでは、業界と職種を組み合わせながら、個別に見ていきましょう。

理系学生の文系就職の事例1【製造業】

●自動車・家電・機械・設備・建築土木:
 製造業の王道とも言うべき典型的な業界が物品(ハードウェア)の製造販売です。この種のほとんどの企業は工場(生産設備)を有しており、全体としては技術職の社員数比率は高いです。あえて、これらの企業の文系職を目指す場合、営業職または総務(デジタル機器&オペレーションシステムの管理)が挙げられます。

 営業職の場合、販売、マーケティング(広告・販促)、メンテナンスサービスなどがあります。商材の品質特性が技術志向の強い場合は、それを熟知して顧客に説明できるコミュニケーション能力の高い理系学生は採用されやすくなります。つまり、「理系の技術専門性」と「コミュニケーション能力(外向性)」の掛け合わせの文理融合キャリアというわけです。いわゆる”技術営業”という専門職がこれに該当します。この職種は希少価値が高く、将来的にも極めて有望です。ちなみに、この職域は私のキャリア支援の専門分野でもあります。
 例えば、精密機械(センサー)の製造販売のキーエンス(株)、小型モーターの製造販売の日本電産(株)、建築大手の大成建設(株)などが該当します。

 一方、総務部に配属希望の場合、VPNなど社内のパソコン通信のオペレーション管理、社員の情報管理や外注業務管理、設備機器の仕入選定や導入運用の管理などを総合的に取りまとめる力が要求されます。近年は、このような社内システムはデジタル化(社内グループウェアで記録管理されるのでほぼペーパーレス)されつつあり、今や設備機器の知識やIT関連の専門知識を有する理系人材を総務要員として採用したい企業は多くなっています。この事例では、「理系の技術専門性」と「合理的且つ効率的な仕組み構築力」の掛け合わせの文理融合キャリアになります。
 一見すると、「合理的且つ効率的な仕組み構築力」には文系キャリアの要素がないように感じられますが、対外的交渉・社員教育・コスト管理も含めて高いレベルの対人スキル(交渉力や協力者を巻き込む力)が要求されます。
 この領域は従来の総務のイメージとはかなり異なります。一言で言えば、「会社経営の仕組み化あるいはシステム化」とい表現の方が的確でしょう。この職種は地味ではありますが、汎用性が高いため製造業のみならずあらゆる業種で通用するキャリアを築くことがでできます。

 次におすすめしたいのは、法務部門への配属です。理系の技術専門性を活かせる領域は知的財産管理とライセンス契約管理です。前者の知的財産管理とは、いわゆる特許の制作・出願・権利化になります。後者のライセンス契約とは取得した特許権を他社が使用実施する権利を付与する場合と他者が有する特許権を購入する契約をまとめあげる仕事です。文系人材がこの領域に介入することはほぼ不可能ですから、理系学生にとって狙い目です。
 この場合の文理融合キャリアの組み合わせは「理系の技術専門性」✖️「法律実務能力」です。学生時代に弁理士の資格(国家資格)、特許管理士(民間資格)、契約法務に関する資格(例:ビジネス実務法務検定)を取得していれば採用される確率は高まります。
 ちなみに、この領域はテレワークが成立しやすく、将来的に子育て・家事と仕事を両立させたいと考えている理系女子学生には向いているかもしれません。

●医薬・化成品・化粧品・食品:
 医薬品の法人営業(BtoB)はかつてプロパーと呼ばれ、理系出身の営業マンも少なくありませんでした。なぜなら、クライアントは主に医師と薬剤師ですから彼らと対等に商談するためには当然のことながら販売員も医薬の専門知識が必要だからです。

 この種の考え方が、この10年くらいで化成品・化粧品・食品の法人営業(BtoB)の業界にも浸透してきました。実際、商品イメージだけで売れる時代は終焉しつつあり、機能性・品質・安全性がより重視されるようになっています。近年は、さらに環境に優しいこと(SDGs:サステイナブルデベロップメントゴールズ)も重要な要件になってきています。
 それゆえ、上述の自動車・家電・機械・設備・建築土木と同じく、「理系の技術専門性」と「コミュニケーション能力(外向性)」の両面を持ち合わせた人材が強く求められるようになりました。 武田薬品工業(株)、日用品のP&Gジャパン合同会社や花王(株)、化粧品製造受託専門メーカーの日本コルマー(株)、健康補助食品の製造販売企業の(株)ファンケルなどは優良企業の事例です。

 ところで、医薬・化成品・化粧品・食品の業界では、女性社員の比率が高いという傾向があります。実際、理系女子学生に大人気の業界でもあります。これらの商品は購入者の半分以上が女性という品質特性があるため、商品デザインや機能設計においても女性の感性が必要とされます。
 さらに、女性は人当たりが柔らかく傾聴力に優れていますので、理系女子学生の新卒をマーケティング・広報に採用する事例も少なくありません。このジャンルは非常に華やかで刺激的且つキャリアアップにも有効であることから理系女子学生にはおすすめの職種です。

理系学生の文系就職の事例2【IT】

 IT業界は、GAMAM・Netflix・楽天・LINE・メルカリに代表されるプラットフォーム事業(BtoC)、IBM・富士通・日本ユニシス・GMOグループなどのソリューション事業(BtoB)、ソフトバンク・KDDI・NTTなどの通信インフラ事業(BtoC)の3つに分類できます。
 IT業界は将来性が高いため就職ランキングでも人気企業が多く、特にシステムエンジニア(プログラマー)は慢性的に人材不足に陥っていますから、理系学生にとっては当面は売り手市場になります。さらに、市場価値を高めるために、エンジニアと営業を掛け合わせた文理融合キャリアの事例を紹介します。

 まず、プラットフォーム事業(BtoCとBtoBの両方)を営む企業への文系就職としておすすめは、マーケティング部門です。いわゆるウェブマーケティングあるいはデジタルマーケティングと呼ばれる領域で、一定レベルのプログラミング技能が必要です。この領域は私のキャリア支援の専門分野でもあります。
 この職種では、顧客との接点が多く顧客管理や広告の運用をする部門で(アプリのアレンジや開発にも関与することも少なくありません)、理系学部で培ったデジタル技術のあ専門性を活かすことができます。ITの中でも花形と言われる部署で、とても人気があります。しかも、この部署でのキャリア形成は、フリーランスや起業として独立するうえで非常に役立ちます。

 次に、ソリューション事業について説明します。これは企業に特注の顧客管理システムや販売システムなどを構築して導入するサービスで、顧客の問題を洗い出して解決策を提供するビジネスです。それゆえ、顧客とのコミュニケーション能力、問題を視覚化・言語化する能力、問題を解決する能力に加えて、製造受託事業として利益を生み出せる企画立案力(ちなみに見積価格の設定はかなりの熟練を要します)の3つが必要となります。よって、高度な技術営業能力が求められる職種です。

 なお、中堅クラスのIT企業ではコンサルティングファームと連携してソリューション事業が運営されているケースも少なくありません。この場合、コンサルティングファームが問題解決策をトータル設計し、IT企業がソフトウェアのプロブラミングやデバイスの調達を行います。

 個人的な意見ですが(あまり根拠はなく私の直感)、このようなしリューション事業を営む企業への就活に関しては、大卒(学士)よりも大学院修士を経てからこの領域へ就職を検討することをおすすめします。当然のことながら、入社して一定の経験を積んだうえでチームの一員として抜擢されることになりますが、技術者としての問題解決能力が一定水準に到達していないと務まらない仕事だからです。

 最後に、通信インフラ事業(BtoCとBtoBの両方)ですが、わかりやすい例としては携帯電話やパソコンなどの通信機器の販売や光ファイバーなどの通信サービスの営業になります。
 この場合、企業を対象に営業するBtoBではそれぞれの顧客企業の状況に応じた技術的要件の取りまとめや機器類の設置サービスにも関わる必要がありますので、営業力に加えて技術の専門性が要求されます。ですから、理系学生にとって通信インフラ事業の営業職に就くことは文系出身の営業職と比べて大きな優位点になります。

理系学生の文系就職の事例3【通販】

 アマゾンや楽天に代表される通販プラットフォームあるいは各社の販売サイトであらゆるジャンルの商品が販売されています。通販の事業を職務で区分すると、商品開発、製造(外注および包装を含む)、仕入在庫管理、販促企画、広告、ウェブマーケティング、通販システム管理(サーバー管理を含む)、受注、出荷物流、顧客分析管理になります。

 この中で、理系の技術専門性が活かせる職種は、商品開発、広告、ウェブマーケティング、通販システム管理(サーバー管理を含む)、顧客分析管理の3つですが、業界内で理系出身社は非常に少ないのが現状です。
 実際、通販システム管理の改築・増設・メンテナンスには多くのシステムエンジニアが携わっております(文系出身のエンジニアも少なくありません)。

 私が「理系の専門性が活かせる職種」として注目する領域は、”ウェブ広告と顧客分析”です。この職域は私のキャリア支援の専門分野でもあります。データサイエンスのマイクロ系と考えても良いでしょう。

 広告実務の例をあげますと、こんな感じです。まず、販促効果について仮説を立てて部分的に異なるダイレクトメール広告(例えば、デザインと販促内容は同じでキャッチコピーのみが異なる)を多種多様な属性(性別、年齢、家族構成、趣味、嗜好、過去の購入商品の傾向特性、購入パターン、1回あたりの平均購入金額・上限購入金額など)で区分した顧客層に同時に試し打ちをします。その結果(レスポンス)を詳細に条件区分しながら分析して広告内容と顧客属性との相関性を見つけ出す仕事です。

 実は、偶発的な外部環境要因によっても広告の効果は変動しますので(例えば、ある化粧品の新聞広告を掲載したときに偶然にも大雨が発生して深刻な被害がでたという状況では広告効果は下がります)、それらの要因も鑑みながら結果を整理分析する必要があり、かなり複雑です。分析作業の手法や精度によって、今後の掲載広告の改善効果が利益率に換算して1%以上も変わることは珍しくありません。
 ちなみに、これを自動化した技術がAIなのですが、その仕組みやプログラミングの企画立案ができるレベルの技能があれば、求められる人材としてかなり有望です。

 よって、顧客分析担当としては統計学や確率論を熟知していることは当然として、それに連動してマーケターとしては顧客志向の営業センスも必要です。これら2つの仕事は両輪ですが、どちらかというと後者の資質(どんなお客様がどのような条件が整ったときに買ってくれるのかを見抜いて打ち手を考える力)の方がより重要です。
 なぜなら、この領域は、心理学的あるいは非論理的な要素も多々ありますので、ときには顧客分析結果に背いて人間が独自に判断することになるからです。でも、それゆえに、ウェブマーケティングはめちゃくちゃ刺激的で面白い仕事だと思います。

 よって、プログラミングやITの専門性を有する理系大学生で「広告や販売に興味がある」という方であれば、通販業界のウェブマーケティングの職種を目指して就活することは非常に有効です。
 ただし、このポジションは通販企業の中でも花形部署ですので、大手通販企業に入社しても果たしてそこに配属されるかどうかはわかりません。マーケティング部門に配属されたとしても、通常はアシスタントとして1〜2年くらいの下働きをして成果を出さないと抜擢されません。それゆえ、職種にこだわるのであれば、大手ではなく中堅クラスの通販企業(売上規模として100億円以下)が狙い目です。

 ちなみに、電通や博報堂など大手広告代理店であれば同様の仕事ができるのではないか、と思われるかもしれませんが、実はそうでもないのです。販促企画→広告→商品販売→売上→利益という一連のビジネスの流れにおいて、広告代理店が関与するのは「販促企画→広告」だけです。ビジネスである以上、最終的に「コストを差しいて得られる利益」にまで責任を持つためには、通販実務全体に飛び込むしかないのです。

 もちろん、大卒後は広告代理店に就職して、3年後くらいに通販企業に転職するというキャリアアップの仕方もあります。このパターンも珍しくありません。
 通販のマーケティングはかなりしんどい仕事ですが、失敗した経験も含めてものすごく大きな学びになりますし、将来にフリーランスや起業を目指すこともできます。

 
《私の経験に基づく個人的意見》
 私は、「社内の営業会議や取引先の担当者等との打ち合わせ(相手方は全て文系出身)でデータ分析結果についての議論をするときに、標準偏差と標準誤差の概念の違いを説明することがあるのですが、ほとんどの方に理解してもらえなかった」という苦い経験があります。
 わずかながら私の説明を理解してくれた方(全体の約20%)は、偶然かもしれませんが全て国立大学卒でした。彼ら彼女らは、「大学受験で数学をちょっと勉強していてよかった(国公立大学の受験は数学を含むセンター試験が必須)」と言っていました。
 この経験は、人事(誰をデータ分析の担当にするか)において非常に重要な教訓となりました。標準偏差と標準誤差をそれぞれ定義する数式の違いは一見して誰でも理解できますが、この数式の違いがどういう実務的意味を持つのかを理解できないと分析結果の深掘りや得られたデータの応用展開ができません。
 データ分析の仕事に抜擢する人材について、文系理系にかかわらず、やはり数学(特に統計学)の素養は必須であると痛感しました。

理系学生の文系就職の事例4【商社】

 多種多様な商材を取り扱う総合商社は世界的に珍しく、ほぼ日本固有のビジネスモデルですが(穀物や鉱物など特定商材を取り扱う専門商社は海外でもあります)、事業活動の範囲は先進国から発展途上国に至るまで極めてグローバルです。最近、投資家のバフェット氏が日本の総合商社を株式投資のポートフォリオに組み込んだことから、世界的にも注目されています。

 日本の総合商社が取り扱う商材のうち、医薬品・農薬・化成品・精密機械・プラント・エネルギー資源、希少メタルなどは製造技術や品質を評価管理する能力を有する人材でなければ運用することができません。そこで、理系人材の登用となるのです。これは極めて必然的なことなのですが、これまでは理系学生にはあまり人気がありませんでした。

 その理由は、英語と対人スキルを駆使したコミュニケーション能力が強く求められるからです。もし、あなたが社交的・外交的な性格でグローバルな仕事(英語が得意)をしたいと考えているのなら、商社は狙い目です。
 近年は、商社側としても理系人材の採用に注力するようになってきました。例えば、大手商社の一つである永瀬産業(株)は文系職としての理系学生の採用だけでなく、会社方針として研究開発部門を有した文理融合型の業態に変貌しようとしています。

 この場合の文理融合キャリアの組み合わせは、「理系の技術専門性」✖️「語学を活かしたコミュニケーション力」となります

理系学生の文系就職の事例5【マスコミ・メディア】

 理系学生でマスコミやメディアに就職する事例は少なからずありますが、多くの場合は文系学生と分け隔てのない人事評価で採用されています。一方、稀に科学関連ニュースを専門に取り扱う記者や編集者の採用枠があることをご存知でしょうか? 

 今回、私がおすすめするのはこの職種の人材枠です。なぜなら、これからDX社会を迎えるにあたり、多種多様なデジタル機器やサービスが登場することでしょう。ところが、それらを一般視聴者にわかりやすく且つ的確に説明できる能力のある人材は決定的に不足しています。

 例えば、”ブロックチェーン”を500文字以内で一般人でもわかるように説明できますか? ブロックチェーンの専門家でも、わかりやすく要約することは容易ではありません。そもそもブロックチェーンの技術や概念を塾知しているだけでは、そう簡単に説明できるものではありません。、一般人のデジタルリテラシーや社会構造や金融の知識も必要ですよね。

 そこで、登場するのが”科学コミュニケーター”と呼ばれる職種です。


科学コミュニケーターの例としては、NHKの科学番組「サイエンスZERO」に出演されている ”竹内薫さん”(東京大学・物理学科卒)、物理学や数学をわかりやすく解説する動画配信の人気ユーチューバー ”ヨビノリたくみさん”(横浜国立大学・数物電子情報系学科卒)が挙げられます。


 彼らのような有名人になりましょうという意味ではなく、「マスコミ・メディアの記者あるいはジャーナリストとして科学コミュニケーターを目指してみてはどうですか?」という提案です。
 これからDX(デジタルトランスフォーメーション)社会へと向かう中で、新しい概念や革新技術が登場することでしょう。それゆえ、科学コミュニケーターのニーズはますます高まると考えられますが、この領域を担える人材が不足しているのです(ほとんどいません)。
 それゆえ、大学内でも科学コミュニケーター育成のための教育プログラムの設置が求められていますが、同志社大学の生命医科学部ではサイエンスコミュニケーター養成副専攻の講座(担当教員:生命医科学部教授・野口範子さん)が履修できるようになりました。

 別の事例をあげますと、医薬品・化粧品・機能性食品・医療関連商品など技術志向の強い商品類のパッケージ表記、商品説明書、商品広告の作成にもつながります。実は、このような商品の広告媒体を専門に扱う”サイエンスライター”または”技術ライター”という職種が存在します。
 私が知る限り、一定レベルの技能を持った技術ライターは非常に少ないと思います(そもそも広告代理店のライターのほとんどが文系出身ですから)。
 ちなみに、私自身も化粧品・機能性食品・医療関連商品の開発を手掛けていたときにたくさんのパッケージデザイン表示や広告媒体を作成した経験がありますが、「技術の専門性」と「法律の理解(薬機法、食品衛生法、健康増進法など)」と「販売実務の経験」がないとできない仕事なのです。

 最後に、科学ジャーナリストとしての道筋についてお話しします。科学技術の進歩スピードがあまりにも速すぎるため、法律の整備や社会通念が追いついてこないという現象が起こっています。
 例えば、医療サービスや食品改良に利用される遺伝子操作技術です。具体的には、人間や動物のクローン技術などは倫理的にどこまで許されるのかという問題がありますが、まだまだ議論の途上です。
 また、皆さんが食している大豆のほとんどは遺伝子組換食品ですが、20年前の発売当初は「栄養価や品質に違いがないのだから遺伝子組み替えである旨を表示しなくてよい」という企業側の主張に対して消費者から大反対の声が上がりました。今では遺伝子組み替えの有無についてパッケージ表示が法的に義務化されています。当時、遺伝子組み替え技術を深く理解した上で適切な提言をすることができた日本人ジャーナリストはいませんでした。

 最近の例ですと、検索サービスにおけるクッキーの第3者利用を回避する技術(Googleが提唱)に対して、なおも利用者から不安の声が高まっています。あるいは、ブロックチェーン技術の代表例である仮想通貨に対して政府はどのように対応するべきかという議論が沸き起こっています。

 このような社会問題に関しては、従来の文系出身のジャーナリストでは太刀打ちすることはなかなか難しいかもしれません。なぜなら、「新技術を深く理解すること」と「倫理・哲学・心理学・社会学などの知識」との連携考察が必要だからです。つまり、私たちの社会は、理系と文系の両面から考察する力を培った科学ジャーナリストが求められる時代にすでに突入しているのです。 

 個人的な意見ですが(あまり根拠はなく私の直感)、大卒(学士)よりも理系大学院・修士課程を経てからマスコミ・メディアの科学記者枠で就活することをおすすめします。
 なぜなら、自力で研究テーマ設定・仮説・実験検証・分析・考察・論文作成・学会発表という一連の経験があった方が、圧倒的に質の高い取材とアウトプットができるようになるからです。

理系学生の文系就職の事例6【ベンチャーキャピタル(投資ファンド)】

 国内最大のベンチャーキャピタルと言えば、ジャフコグループ株式会社ですが、毎年コンスタントに新卒採用をしています。

 一般にベンチャーキャピタル(投資ファンド会社も含む)が技術系ベンチャー企業に投資するとき、その企業が有する技術の資産評価は非常に難しいのです。そもそも文系出身の社員では、ハイテク企業が開発したような革新技術の詳細を理解することさえ難しいのが現実です。その一方で、技術資産を的確に査定評価でき且つ投資の実務にも長けた理系人材は非常に少ないのです。

国内では、佐山展生さんはこの分野の先駆的代表格ですが、京都大学工学部を卒業後に化学メーカーの研究開発職を経て33歳で銀行に文系転職されています。後に、独立系投資ファンド”ユニゾン・キャピタル”を創業されています。
 ちなみに、音声配信サービスVoicyの中で、彼は「人生とは ”おもしろそうなこと” や ”人がやっていないこと” を追求する旅」とコメントされています。

引用元:佐山展生さんのVoicy「Randum Talk 佐山展生」の2018年12月11日配信


 これからDX(デジタルトランスフォーメーション)に関連する新技術がどんどん出現してきます。そのような技術の革新性、応用範囲、将来性などを評価するためには理系の技術専門性を有した株式公開実務人材が必要とされています。ときには、投資先の役員となって技術開発や経営に介入する能力も必要ですし、有能や人材をスカウトすることもあります。ですから、経営や人事にも長けていなければなりません。
 日本では、この領域はほとんど未開拓です。それゆえにチャンスも大きいです。ハイリスクハイリターンの世界ですが、チャレンジする価値は十分にあると思います。もし、あなたが英語が堪能で国際的素養(例:留学、帰国子女)があるのなら、外資系のベンチャーキャピタルへ就職した方がよりダイナミックで刺激的だろうと思います。

 
私は35歳のときに投資ファンド会社からバイオベンチャー企業のCTOとしてスカウトされたことがあります。私が選ばれた理由は、「医薬品開発の技術専門性」と「広告営業実務の経験」の文理融合キャリアが評価されたとのことでした。
 大学生のベンチャーキャピタルへの就活という論点とは少し異なりますが、技術系企業の経営者や投資家を目指すのであれば、文系と理系のキャリアの掛け算が必要不可欠なのです。

理系学生の文系就職の事例7【大手のコンサルティングファーム】

 あまりおすすめしません。

 他の職種と比べて、この領域は求められる問題解決能力の高さと幅が段違いのレベルです。在学中に圧倒的な実務実績(優れた研究論文などの学術成果または発明、論理的思考力、コミュニケーション能力、英語力、公認会計士など難関国家資格取得、ベンチャー創業または事業参画、NPOなどボランティア事業の立ち上げ、海外協力のうち少なくとも3つ以上)がなければ、大卒採用されたとしてもコンサルタントとして長期的に成果を出せるほどに成長できる社員は極稀です。労働環境は総じてハードです。

 逆に、上述の条件を十分に満たすほどの実績が学生時代に成し遂げているのであれば、コンサルティング業界は非常に刺激的でダイナミックなビジネス変容を実感することができます。

以上