はじめに
文系学生が技術職として理系就職することが可能な職種は2つあります。一つはウェブ系エンジニアですが、もう一つが食品の商品企画開発職です。
食品の研究開発には素材開発(食品原料)、製法開発(大量生産)、製品開発(レシピ・成形)、商品企画の4つの段階があります。これらのうち、素材開発と製法開発はバイオや機械設備の技術専門性が必要ですが、製品開発と商品企画ではむしろ文系人材の非論理的感性が必要な場面が多数あります。
この工程では、いわゆるローテク(手作業による組み立て)と呼ばれる従来型の開発手法の性質が残っています。この部分であれば、ロジックだけでなく感性に優れた文系出身者の方こそ必要とされる人材なのです。私の経験では、斬新で独創的な食品のレシピや成形は、むしろ非論理的な思考(感性とは違います)から生まれることも多いのです。
具体的な商材例を言いますと、レトルト食品・乾物・菓子・調味料・飲料の開発です。
食品の企画設計開発は理系と文系のどちらが適任か?
理系と文系の人材のハイブリッドで構成される部署の一つが、食品メーカーの商品企画開発部門です。この部署は研究開発の側面とマーケティング的な側面の両方が必要とされるからです。文系学生はまずはこの商品企画設計部門を狙うのが現実的です(大手企業の場合は花形部署なので配属の競争率は非常に高いですよ🐙)。
その上で、「商品企画から技術志向へと少しずつ軸足をずらしていきながら実績を積んで、研究開発にもコミットできるポジショニングを得る」というのが割と多い出世パターンです。
当然のことながら、売れる商品を生み出すためには研究開発部門とマーケティング部門の連携協力が必須なのですが、これがなかなか難しいのです。実際、特にコスト(原価)や商品コンセプトの面で両部署の折り合いがつかず、摩擦が絶えないことはザラにありました(個人的経験🐙)。
そこで、研究開発の段階から文系人材を登用して組織を活性化させようと考える企業経営者もいらっしゃいます(特に中小企業のオーナー社長🐙)。実際、新規コンセプトの商品開発プロジェクトのリーダーは理系でなく文系人材が担うことも珍しくありません。
文系人材が開発や製造の現場を経験しておくことは、マーケティングや経営管理に非常に役立ちます。食品業界はそれができる数少ない業界の一つなのです。実際に文系でも研究開発職としてうまくやっていける理由は次のとおりです。
① 食品の研究開発において、ソフトや電化製品の開発者と比べて数理知識はあまり必要ありません。
② 栄養機能的側面だけでなく、味、香り、色、食感など人間の知覚への訴求が重要な付加価値のポイントである。製品開発において、いわゆる人間の感性や職人技とも言えるローテクの要素がたくさん残っています。
③ 食品の中身だけでなく、その容器やパッケージのデザインも商品力の重要な側面ですが、商品コンセプトと視覚的魅力に優れていなければなりません。ところが、パッケージデザインは必ずしも理詰めで解決できるものではなく、ターゲット顧客に対して心理的・感情的な訴求ポイントが必要です。
④ 顧客の多くが女性であることから、女性の感性が創造的な研究開発に必須なのですが、相対的に女性の理系学生は少ないです。それゆえ、文系の女性人材登用の機会が多くなります。
⑤ 食品の製造技術がますます進化するため、広告マーケティングよる集客力と両輪ながら ”独自技術を駆使した商品力”がリピート購入促進の主軸になっていく(この点がめちゃくちゃ重要です🐙)。
⑥ 従来の食品との”コンセプトの違い”がますます重要になります。特に、美容健康志向(機能性食品)・アレルギーフリー・植物性・環境にやさしい・食料問題の解決・SDGs(Sustainable Debelopment Gools)などがキーワードになります。これらの発想をベースにした商品化のアイデアについては、理系よりも文系の方がよりクリアエイティブな発想力があります🐙。
例えば、海外では、植物性のミルク、アレルギーフリーの卵白、合成コラーゲン、培養肉などの代替食材が販売されようとしています。
⑥ 上述の⑤と矛盾するかもしれませんが、技術志向の食品開発であったとしても、商品企画設計の段階からマーケティング(販売手法・広告・顧客サポート)と密接な連携が必要です。その接点を担う人材は非常に重要なのですが、その人材はコミュニケーション能力や調整能力において相対的に理系学生よりも文系学生の方が優れていることが多いです。
文系学生が食品の商品企画開発職を目指す就活に必要な条件とは?
大手食品メーカーなどでいわゆる基礎研究や技術開発研究といった特定分野を深掘りするような技術職はほとんど有名大学の理系大学院の学生によって採用枠が締められてしまいますので、そこに新卒の文系学生が滑り込むことは現実的には難しいかもしれません。
ところが、中小企業であれば文系学生でも商品企画や製品開発に採用してもらえるチャンスは十分にありますよ🐙。特に、食品の顧客の多くは女性であることから、商品設計には女性の感性を重要視しますので、女学生は有利です。多くの場合、採用において女性枠が設定されています。
ただし、ある程度のレベルで食品製造に関連する実績が必要です。はっきり言って、食品に関する特段の教養がない文系学生が採用されるほど甘くはありません。私の経験から文系学生が商品開発職として採用されるために必要な条件を次のとおり紹介します。
① 食品関連資格を有すること
・食品製造管理: 管理栄養士(国家資格)、調理師(国家資格)、薬膳コーディネーター
* 栄養士や調理師の専門学校に通うダブルスクールの文系大学生もいます。
・食品品質評価: ワインソムリエ、野菜スペシャリスト、
・食品栄養指導: 食生活アドバイザー、スポーツ栄養プランナー、食育実践プランナー
② 食品関連企業での実務経験(インターン・アルバイト)
・食品メーカー: 生産現場、品質管理、研究開発のアシスタント(テクニシャン)の経験者は優遇されます。
・外食産業: ウェイターではなく、厨房や食材仕入の経験者は優遇されます。
・農業または水産業: 生産現場、品質管理、研究開発のアシスタント(テクニシャン)の経験者は優遇されます。農業法人の場合、農学部出身者の採用がメインですが、人材不足からやる気のある文系人材(特に体育会系人材は優遇)の採用も活発です。
・スポーツジム: 栄養管理指導の経験者は優遇されます。
③ 食品関連事業のボランティアの経験:
・レシピ作成・調理・配給・接客等の実務: こども食堂、炊き出し(ホームレスの方の支援)
・食品ロス防止またはリサイクル:
・被災地や発展途上国等での食糧支援:
④ コンクールなどでの入賞実績
・利き酒
・調理
・そば打ち
・お弁当
・菓子制作
⑤ 食品関連情報発信の実績
・SNS: ブログ、Twitter、インスタグラム 、フェイスブック 、YouTube、LINE
・紙媒体: 新聞・雑誌などのコラム、フリーペーパー
⑥ その他
・体重別階級性のスポーツ経験(食事制限など体重コントロール)
・ベビーシッターとしての乳幼児食の調理
・郷土料理の歴史研究
・実家の食品事業に参画
以上