はじめに
本章では、理系大学または大学院出身の技術職として5年以上の実務経験がある技術職の方を対象に文系シフトに関する情報をまとめています。「技術職からの文系シフト」とは次の2つのパターンがあります。重要なことは、仕事の対象が「物」から「人」に移行するということです。
① 現役の技術職のプレーヤー(実務者)からマネージャー(管理職)への昇進
② 現役の技術職プレーヤーから文系職種(例:営業職、法務職、経理職、人事職)への転身
技術職の社会人において、大学・大学院あるいは社会人経験の中で習得した技術専門性だけを武器に35歳を超えても社内で現役プレーヤーを継続することは非常に難しいという現実があります。ましてや、技術職として定年まで勤め上げるなんてことは、会社組織の論理からまず不可能です。その理由は次のとおりです。
① ベテラン技術職が長年にわたり習得した技術が陳腐化して、どんどん新しい技術に代替されること
② 一部の熟練技術者は例外として、多くの場合は体力的な観点や新技術習得のスピードの観点から若手社員を採用した方が生産性が高いこと
③ 会社組織の編成の観点から、新規プロジェクトに抜擢された有能な若手社員にとって35歳以上のベテラン技術職は非常に使いこなしにくいこと
多くの場合、35歳を目処に技術職プレーヤーからマネージャーになって研究室や製造部門の管理に専念するキャリアコースが用意されています。この時点で、いわゆる現役の技術職プレーヤーとしては事実上の引退という形になります。
技術部門の管理職に昇格できる人材はプレーヤーとしても実績とチームをまとめ上げるリーダーシップが要求されます。業界・職種・事業規模によっても千差万別ですが、だいたい平均して技術部門のプロダクトマネージャーまたはラボマネージャーになれるのは10人に一人くらいの割合です(私信)🐙。
例えば、バイオ業界の研究開発職の場合、平社員からの昇進段階は、主査、主任、主席、所長または部長という順になります。上述のプロダクトマネージャーまたはラボマネージャーは一般に主任という段階で(平均35歳)、概ねプレーヤーからは引退して5ー20人くらい技術職プレーヤーを束ねる管理職としてのキャリアとなります。
35歳までに技術部門のマネージャーに昇格できない技術職プレーヤーはどうなるか?
大企業の場合、35歳の時点で技術職プレーヤーとして輝かしい実績を有していながらマネージャー昇進を拒んで現役プレーヤーとしての続投を希望する社員がいます。その場合は、3人程度の小規模開発プロジェクトのプレイングマネージャーへのキャリアアップ」または「フェロー」というポジション(個人プレーヤーとしての技術専門職)が与えられることはあります。
しかしながら、私が見聞きする限り、このようなキャリアアップのパターンは特殊な加工製造の技能(職人技)を有しているとか、アカデミックな領域で国際的に非常に高い評価を受けているなど、極めて特例です。このような有能や人材は大学の教授などに転身する場合も珍しくありません。
それゆえ、マネージャーに昇進できなかった技術職プレーヤーは現役としては社内での居場所はなく、社内の他の技術関連部門(例:製造部門のメンテナンス、在庫物流管理、品質管理、企画調査、特許など知的財産管理、技技術営業、顧客サポートなど)への異動となります。
実際、異動しても我慢してコツコツ頑張っていると、こっちの方が向いていたというケースもあります。まあ、人間万事塞翁が馬というわけです。どうしても異動が嫌なら、技術職として他社へ転職を目指すことになりますが、それほど容易なことではないのです。ここがサラリーマンの辛いところです🐙。
35歳を超えると技術職としての転職が困難になる理由は?
昨今の転職市場の拡大に伴い30歳代の技術職の転職は十分に可能ですが、やはり35歳を過ぎると年齢の経過とともにだんだんと難しくなります。業界や職種によっても異なりますが、優れた実績や技能を有していない限り40歳以上で技術職を続投する形として他社に転職することは容易ではありません。
その理由は、技術職に対する労働市場ニーズの限界年齢を挙げることができます。率直に申しますと、転職人材を受け入れる側の論理として、40歳以上の人材を好まないということなのです。
中でも技術進歩のスピードが著しく早いIT業界のエンジニアの場合、第一線でプレーヤーとして活躍できる年齢の限界は最大でも35歳くらいではないでしょうか。概ねプロスポーツの選手寿命と非常によく似ています🐙。
また、ベテランの技術職は、働き方のスタイルの変化(例:ジョブ型雇用の導入、テレワーク、社内管理システムのDX化)についていけないことが多く、研究開発型企業やベンチャー企業では敬遠されがちのようです。
《TAKO塾長の個人的意見🐙》
理系就職を目指す理系学生および20歳代の技術職の方は、30歳代での文系転職を前提にまずは30歳までに技術専門性の習得に注力すること(期間としては5年)は手堅い勝ちパターンの一つです。
IT業界のエンジニアなど業種や職種によっては20歳代が文系シフトの旬である場合もありますが、「ハードウェアの製造業」や「ヘルスケア業界」などでは、理系から文系へのシフトによる文理融合キャリアの構築は30〜35歳の間でも十分に間に合います。
ちなみに、建築・土木の業界や商社のエネルギー開発やインフラ開発の業界では特定職種の技術専門性だけでは労働市場価値が高まりにくく、ある程度のオールラウンドな技術専門性を身につける必要があります。
それゆえ、技術キャリアの習得期間として10年以上もの期間を要する場合も多々ありますから、30歳代後半から40歳代前半の文系シフト(管理職として)も可能です。
技術職社会人は、20代後半に文系シフトの準備を開始するべき!
技術職が35歳を超えてからも力強く生き残っていくためには、できれば20歳代後半から文系シフト(例:営業職、法務職、独立・起業)の準備を始めることをオススメします。その理由は次のとおりです。
● 理由①: ビジネス成功の鍵は技術開発力だけでなく、営業力との両輪である。
一つ目の理由は、新技術を駆使した製品やサービスの開発・製造よりも、それらを販売することの方がより難しいというケースが多々あります。それゆえ、ビジネスとして成功するためには創造的な製品力と優れた営業力が両輪となって連動しなければなりません。端的に言えば、どんなに優れた製品でも営業力がなければ、多くの消費者に知ってもらうことはできないし、ついては買ってもらうこともできないのです。
さらに、商品が継続的に売れ続けるためには技術力としての価値以外に、物語性や企業理念に対する消費者からの共感が得られなければなりません(めちゃくちゃ大事です)🐙。
例えば、SDGs(Sustainable Development Goals: 持続可能な開発目標)を目指す企業は世界的に支持されつつあります。消費者ニーズのみならず、社会全体のニーズやトレンドにも配慮した「ブランド力の構築」が不可欠です。
ですから、一人の会社員として個人のキャリアという観点からすれば、技術者自らが営業スキルを習得することは非常に有効な生き残り戦略なのです。
● 理由②: 技術力で業界内ポジショニングするには知的財産と販売権を独占することが必須である。
2つ目の理由は、ビジネス成功の鍵として、特許・商標・意匠などの知的財産や契約法務の知識も不可欠であるということです。
これらの法的観点を蔑ろにして、製品開発や他社との業務提携はできません。近年、ITや最新技術の開発製造の業界においては「特許取得による発明考案技術の権利化」と「企業と個人または企業間の業務連携」がビジネス戦略上極めて重要になっています。それゆえ、技術者が法律の知識や実務能力を習得することもまた有効なキャリア戦略です。
● 理由③: 最後に3つ目の理由として、技術職がフリーランスまたは起業した場合、一番苦労することは集客(顧客を探すこと)と受注(仕事を得ること)です。つまり、いくら技術力が優秀でも営業力がなければ、売り上げを作ることができないという厳しい現実が待ち受けています。
そのためには、「技術職から営業職に職種シフト(転職を含む)する」または「技術職を部分的に兼務できるようなマーケティング部門へ社内異動する」のいずれかの方法で対人スキルや契約法務の実務能力を磨いておく必要があります。これは独立成功の最も重要な鍵です。
実業家の西村ひろゆき氏はYouTubeの中で、「独立するとき優れたスキルがあることも重要だが、①お客さんを見つけることが一番重要である、②起業で一番難しいのは営業である」とコメントされています。
YouTube せまゆき「スキル0でも食いっぱぐれない!?ビジネスで超重要な「営業」を語るひろゆき」2021年4月27日配信より引用
だからこそ、技術職がファーストキャリアとすれば、セカンドキャリアとして上述の文系職種へのシフトが必要です。
実際、GAFAMやNetflixなど最新テクノロジー関連企業の創業者やCEO経験者の多くは理系出身の経営者であり、大学時代に培った技術専門性に文系技能(マーケティング、営業、法務、人事労務管理、会計)を掛け合わせることにより希少価値のある独自キャリアへと変貌することができます。
以上