アナザー・ワールド 

#1: アナザーワールドとは、”あらゆる柵から解放された時空” 

はじめに

 皆さん、”アナザーワールド”という言葉を聞いて、何を連想しますか? 直訳すると、”日常とは別の世界” という意味です。英和辞典を引くと、”異界” と出てきます。ちょっと物騒な精神世界のように聞こえるかもしれませんが、そんなことはありませんよ。もっと身近なものです。

 例えば、仕事で蓄積した疲労やストレスによって精神的に不調になることもありますよね。イライラするとき、辛いとき、虚しくなるときに、仕事や日常を離れて自分自身をリセットすることができる空間や時間がアナザーワールドです。

 ところで、「そもそも文理融合キャリアとどういう関係があるの?」と思われた方も多いと思います。実は、自分だけのアナザーワールドを持っているということが、文理融合キャリアの構築に非常に重要なのです。

 文系から理系あるいは理系から文系へのキャリアシフトは大きな決断を要するものですから、「本当にありたい自分とは何か」を自らに問いかけることが前提となります。実際に文理融合キャリアの構築は質的に異なる職種へのキャリアチェンジを伴いますから、精神的なストレスも大きくなることが多いです。それを乗り越えるためにも、 素の自分自身になれる空間であるアナザーワールドが必要なのです。

 一方、文理融合によって創り出された遺産が、今の私たちにとってのアナザーワールドとして機能しているという、不思議な因果があります。美術館や禅寺などの建造物はその典型的な例でしょう。

アナザーワールドとは、仕事や人間関係から完全に切り離された”無心の世界”

 皆さんは、ワークライフバランスという言葉を聞かれたことがあるかと思います。ワークライフバランスとは、ワーク(仕事)とライフ(友人関係、家族関係、趣味など)の時間配分をバランスよく調整することにより心身ともに健康な状態を維持することを目的としています。

 アナザーワールドとは、仕事や人間関係から完全に切り離された「正直な自分自身と向き合う一人だけの時間」です。その人が「あらゆるしがらみから解放された無心状態」と言い換えることもできます。感覚的に言えば、「頭を空っぽにできる時間」です。

 趣味はワークライフバランスのライフの要素の一つですが、アナザーワールドは一人であることが条件として加わります。最も身近なアナザーワールドは、「一人だけの趣味の時間」ということになりますが、私が推奨するアナザーワールドは、「究極の癒しの世界」とも言うべきでもう少し崇高なものです。例えば、次のような事例が挙げられます。

① お寺・神社・教会:
 まずは、お寺・神社・教会などの宗教施設です。お寺や神社は日本人にとっては馴染み深く、冠婚葬祭でも赴く機会は多いかと思います。ちなみに、私は若い時から龍安寺など禅寺を定期的に訪問しています(京都に住んでいた時期があります🐙)。枯山水の庭を前に座禅を組めば体からな邪念が抜けていくような心地よさがあります。一方、教会の厳かな雰囲気やステンドグラスの美しさは、クリスチャンでなくとも私たちの心を癒してくれます。

② 美術館:
 美術館は、展示会場の芸術鑑賞や建築物としての空間演出を通じて自分の内面の奥深くに入り込むことができます。時には心を刺激し揺さぶり、時には心を鎮めてくれます。そして、あるときぽっと何かが浮き上がるのです。それが独創的なアイデアに繋がることも多いのではないでしょうか? ちなみに、私は子供の頃からモネの作品が大好きで画家に憧れていた時期もありましたが、その当時の純粋無垢な自分を思い出させてくれます🐙。

劇場:
 劇場とは、コンサート、演劇、落語・コント、ミュージカル、オペラ、スポーツイベント(個人的には格闘技が大好きです🐙)などの会場設備を指します。皆さんはいずれかの経験で楽しまれた経験をお持ちでしょう。まるで我を忘れるほどの興奮状態あるいは役者が演じる人物のの人生や物語に自分を重ねることによって、自らを非日常へといざない生気を取り戻すことができるのです。

④ 宿:
ここで言う宿とは、癒しだけを求めて一人で宿泊するホテルや旅館のことを指します。皆さんはそんな目的の宿をお持ちでしょうか? 私は全国にこの種の宿を5つほど持っています(おいおい本ブログで紹介していきます🐙)。

遺跡:
 遺跡は壮大なロマンの典型です。モンサンミッシェル、アンコールワット、万里の長城は時空を超えた異界といえるでしょう(英和辞典の翻訳通り)。ただ、私がおすすめする遺跡とはもっと小規模で人気が少ない空間です。例えば、熊本県の塚原古墳群は、梅雨時は小高い古墳が幾重にも連なる美しいグリーンです。乳幼児を連れたママさんを時折見かける程度のどかな風景に心癒されます🐙。

⑥ お祭り:
 一口にお祭りと言いましても、いろいろな形態があります。私がお勧めするのは心鎮めるお祭りです。例えば、京都の大文字焼きはその代表例でしょう。あの五山送り火を見ていると心が洗われるようでした(京都大学の校舎から見えます🐙)。

⑦ 自然との調和:
 自然との調和とは海・山・川に囲まれて時間を過ごすことですが、具体的には釣り、海辺の散歩、ソロキャンプ、山菜・きのこ狩りなどが挙げられます。それらに癒し効果があることはもちろんですが、醍醐味は自然との一体感と畏怖の念が自分を謙虚にさせてくれることです。その結果、”自分が本当にやりたいこと” や ”なりたい理想の姿” を想起させてくれることがあるのです。

アナザーワールドの効果とは?

 辛いとき、悲しいとき、イライラするときなど、このような精神的な癒しの空間で一人だけの時間を過ごすことは、私たちを仕事や人間関係などの日常の煩わしさから解放して「自己と対峙する機会」を与えてます。アナザーワールドに定期的に浸ることは、次の通り3つの効果があると考えています。

① 安定した精神状態を取り戻す(メンタルヘルスの維持増進)。
② 自分の中にある創造性を引き出す。
③ なりたい自分を見つける。

 ①のメンタルヘルス維持増進効果は、上述した5つの事例の全てに期待できます。例えば、自然との調和の事例として挙げたソロウォーキングの癒し効果は絶大です(私の毎日のソロウォーキング実体験から自信を持って推奨します🐙)。特に海辺を散歩するときは、波の音、鳥の声、潮の香り、海の青さ・白波の美しさ・水の透明度、海水や砂の感触が相乗効果的に作用します。

 ちなみに、米国の映像アーティストであるジュリア・キャメロンは、著書 “ずっとやりたかったことをやりなさい” の中で、「ソロ・ウォーキング(一人だけで散歩すること)」の効果に言及しています。
 一例として、著作権エージェントのカティロ氏の「ソロウォーキングをすると心が平和になり、スッキリする」とのコメントを紹介しています。

引用元:  ずっとやりたかったことをやりなさい。 ジュリア・キャメロン 著/菅靖彦 翻訳 2020年 サンマーク出版 発行 

 ②の創造性を引き出す効果は、上述した5つの事例の中でも美術館と自然との調和で発揮されることが多いです。そもそも、美術館の目的が創造性を育むための芸術鑑賞であることから、右脳が刺激されやすいのかもしれません。また、視覚的芸術作品には、自分の知り得ない潜在意識の奥深くまで内省させる効果があるのでしょう。
 アップルの創業者であるスティーブジョブズはリード大学の授業で出会ったカリグラフィーの美しさに惹かれ、後に洗練されたマッキントッシュのデザインやフォントデザインに影響を与えたというエピソードは有名ですよね。

 ちなみに、山口周氏は著書 ”世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか?” の中で、「アートがサイエンスを育む」と主張されています。
 実際、独創的研究の最高峰と言えるノーベル賞受賞者は一般人の2.8倍の割合で芸術的趣味を持っていることが統計的データとして示されています。

引用元: 世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか? 山口周 著  2017年 株式会社光文社 発行

 ③の「なりたい自分を見つける」とは、自分は何者なのか、自分の才能は何か、自分が本当にやりたいことは何か、と言う根源的な問いに対する答えを見つけることです。これは、容易なことではありませんが、いろいろなパターンがあります。
 無の境地で自分自身と真っ向から向き合う中で、子供の頃の夢を蘇ってきて新たな挑戦を決意した人もいます。あるいは、自然との調和を活かした趣味を追求する中で、幸せな自分自身の在り方を発見してそのまま仕事になってしまった例もあります。例えば、お笑いタレントのヒロシさんもその一人でしょう。

 ヒロシさんは、もともと芸能界の人間関係から逃避するかのようにして始めた趣味のソロキャンプでしたが、その光景をYoutubeで発信したところ、想定外の大ブレークとなりました。
 今では自分ブランドのキャンピンググッズの販売も手がける事業家として独立されています。そして、ご本人もソロキャンプの発信は、全くストレスもなく自分らしい生き方だと満足されています。

引用元:
もうすぐ春のソロキャンプ/ヒロシちゃんねる ヒロシ 作 2020年3月6日 Youtube配信
ヒロシのソロキャンプ-~自分で見つけるキャンプの流儀 ヒロシ 著 2020年 学研プラス 発行

アナザーワールドを具現化した建造物は “文理融合の聖地” である。

 ところで、上述で「アナザーワールドの事例として紹介したお寺・神社・教会・美術館・劇場・宿・遺跡などの建築物は全て洗練された建築技術と芸術的センスが融合した崇高な遺産である」と言うことに皆さんはお気づきでしょうか? 
 つまり、これらはまた人類が文と理の智を駆使して創り上げた遺産であり、まさに ”文理融合の聖地” と呼ぶべき空間なのです。

 ちなみに、私にとっての文理融合の聖地というべき美術館の一つが兵庫県立美術館です🐙。兵庫県立美術館は建築家の安藤忠雄氏の設計デザインによるものです。安藤氏は、建築界のノーベル賞とも言われるプリッカー賞の受賞者でもあります。

 そして、安藤氏自身も建築家でありながら自ら営業もこなす文理融合キャリアの第一人者でもあるのです。こうして、アナザーワールドを俯瞰してみますと、アナザーワールドが人の独創性や天性の生き方を導き出すと同時に、その人によって新たなアナザーワールドが創造されいます。そして、それがずっと繰り返されていくのです。

以上